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北海道大学獣医学部の野外実習を行いました【2021年】

2021年9月27~29日の3日間、今年も北海道大学獣医学部の野外実習を受け入れました。今回は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、参加する学生さんたちは事前にPCR検査を受けてきてもらったうえでの実施となりました。各班のテーマは、1班「動物の生態」、2班「動物の感染症」、3班「知床自然遺産」です。

皆さん時間の限られる中で、課題の発表から調査・分析、結果のまとめ、考察までをしっかりとやっていて、とても素晴らしいと思いました。

ブログへの投稿は2013年から毎年行っていますので、よろしければ過去の記事もご覧ください。

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以下が、学生の皆さんのレポートです。

※「動物の感染症」について調べた2班は実習で得られた検体を基に大学で追加の解析を行っています。

追加の解析結果がで揃い次第、2班のブログも公開致します。

 

1班「ある日森の中くまさんに出遭った⁉︎〜野生動物と人との接触〜」

 私たち1班は、知床のさまざまな場所における野生動物の痕跡を調べて記録し、それを比較することで、人の立ち入りが野生動物に与える影響や、人と野生動物の関係性について考察しました。

 実習期間中、多くのクマ糞、背こすり跡・爪痕、足跡、キツネ糞、エゾシカ糞塊のほか、タヌキの貯め糞や、熊に破壊された木など、様々な痕跡を発見することができました。

 また、発見したクマ糞のうち、その場での時期推定が難しいものについては、持ち帰り、内容物の分析を行いました。

踏査の結果、ヒグマ・エゾシカは人の出入りの少ない場所で比較的痕跡が多く認められ、キツネは人の多い川の近くの道路などで痕跡が多く認められました。これは、ヒグマ・エゾシカは人を避けて行動する傾向があり、キツネは逆に人に近づく傾向がある、ということを示唆しています。

 特にキツネについては、餌付けを受けたキツネが自分から人に近づいて行ってしまう、所謂「観光ギツネ問題」との関連があるのではないかと考えられます。

 また、糞の内容物と、踏査地周囲に生えている植物、付近の川・海などの地理的条件から、野生動物の出現頻度には人の出入りのみでなく、その場に存在する食べ物の量や種類も強く関係していると推定されました。

↓無数の熊の爪痕がついた木 上にはヤマブドウがたわわに実っている

 

さらに、森の中の痕跡調査中、実際にくまさんに出遭ってしまいました!

熊とはかなりの距離がありましたが、発見時はただならぬ緊張感が漂いました。

今回は知床財団の方の適切な対応のおかげで、攻撃的な反応を受けることなく無事に離脱できました。知床では車の通る音が聞こえるような場所であっても、少し森へと入ればすぐに熊の領域になるのだと痛感した出来事でした。

怖かった……。

↓この直後に熊に遭遇するとはつゆ知らず、見つけた熊のうんち(新鮮)にはしゃぐ班員たち

 

 

2班「動物の感染症」(10月30日更新しました)

 我々の班は、6名の班員をエキノコックスをはじめとする寄生虫を調査するエキノコックスチーム、知床に肝蛭の生活環が成立しているかを調べる肝蛭チーム、ライム病の存在をダニを捕獲して調べるダニチームの3つのチームに分けてそれぞれの調査を行いました。

 

<エキノコックスチーム>

 実習に参加した学生全員で仕掛けたシャーマントラップで、12匹のネズミを捕獲できました。エゾヤチネズミ、ヒメネズミ、エゾアカネズミが同定されました。

 

捕獲されたエゾヤチネズミ

 

 ネズミたちはすべて剖検し、エキノコックスに感染していないことを確認しました。ヒメネズミの肝臓に径7 mmの白色結節がみられ、そこから条虫を検出しました。

 

ネズミから検出された猫条虫の顕微鏡写真

 

 また、腎臓を採材し、大学で人獣共通感染症の原因菌となるレプトスピラ属菌を保菌しているかどうかを調べました。キットを使用してネズミの腎臓からDNAの抽出を行い、抽出したDNAはPCRをかけて電気泳動を行いました。電気泳動により,レプトスピラ属菌の陽性が疑われるバンドが二つ見つかったため,DNAの配列を読み取るシークエンス解析を行いました。シークエンス解析の結果、どちらのバンドもネズミの遺伝子であり,レプトスピラ属菌陰性であることがわかりました。今回の結果は陰性でしたが、北海道にもレプトスピラ属菌は分布していることがわかっているので,森林や山に入る際には気を付けたいと思います。

 

 さらに、キツネの糞を採取しエキノコックスの虫卵検査を行いました。エキノコックスの虫卵は検出されませんでしたが、犬鞭虫や回虫、裂頭条虫の虫卵がみつかりました。ネズミでもキツネでもエキノコックスが見つからなかったことから、感染環の成立は本調査では確認できませんでした。

 

キツネ糞便から検出された鞭虫卵

交通事故死体のタヌキの解剖も行い、小腸からタヌキ回虫と思われる回虫を検出しました。またその糞から回虫の卵も見つかりました.

 

 

<肝蛭チーム>

我々の目的は、斜里地域で肝蛭の生活環が成立しているのかを調べることでした。肝蛭は、シカ胆管内に寄生している成虫が虫卵を排出し、その虫卵を中間宿主であるコシダカモノアラガイが体内に取り込むことで虫卵が成長、その後貝の体外に肝蛭が排出され草と一緒にシカが口に入れることで感染します。貝を探す調査では、流れのゆるやかな川や用水路を見て回りましたが見つけることができませんでした。

シカの糞を用いた虫卵検査では牛鞭虫やコクシジウムなどが検出されましたが、肝蛭の虫卵は検出されませんでした。岩尾別川周辺での交通事故死亡個体とエゾシカファームからいただいた肝臓を解剖した結果、肝蛭の成虫が複数見つかりました。

これらのことから岩尾別川周辺では肝蛭の生活環が成立している可能性がありますが、移入個体の可能性もあり、さらなる確証を得るためには知床地域内でコシダカモノアラガイからのレジアを検出することが必要です。

 

エゾシカの交通事故死体から見つかった肝蛭の成虫

 

<ダニチーム>

 近年北海道での発生が多く問題となっている、ライム病の原因菌について調査しました。ライム病は、北海道全域で患者が散発しており、ネズミなどの野生動物から主にシュルツェマダニの吸血を介してヒトに感染します。目的は、知床に生息するダニを捕獲してライム病原因菌であるライム病ボレリアの保有状況を調べ、知床においてライム病感染の可能性があるか評価することです。

 白い布を使って飛びついたダニを採取するフランネル法や、動物についたダニを集めた結果、オオトゲチマダニ23匹、キチマダニ14匹、ヤマトマダニ2匹、パブロフスキーマダニ1匹、シュルツェマダニ1匹が取れました。

 大学にて、これらのダニから36検体を選出しDNA抽出をしてPCR検査と電気泳動を実施した結果、シュルツェマダニの1検体でPCR陽性となりました。さらに詳しく調べるためにシークエンス解析を行ったところ、ライム病病原菌(Borrelia japonica)であることが分かりました。

 知床の山林においても、ダニを介してライム病に感染する可能性があることが分かったので、山に入る際には感染リスクを出来るだけ低くできるように、服装などダニに噛まれないような対策が重要であることを実感しました。

 

フランネル法によるダニの採取

 

 

 

3班「土とハチ」

 3班は生態系の豊かさを調べるための土壌の調査と外来種の侵入について調べるためのマルハナバチの調査をしました。

 調査は札幌および知床で行い、比較することを試みました。

 

【土壌調査】

 土壌の調査では、以下2つの方法を使いました。

・ハンドソーティング法

 20立方センチメートルの土を掘り返し、その中にいる土壌生物を同定して点数化しました。

・ツルグレン法

 ツルグレン装置を用いてハンドソーティング法では見つけられないような小さな土壌生物を見つけました。

 下の写真のように手作りツルグレン装置に土を設置し、この上にカイロを置いて熱から下へ逃げていった土壌生物をカップの下のアルコールで捕らえました。捕らえた土壌生物は顕微鏡を使って同定しました。

 同じ調査地であっても数メートル横で点数が異なり、点数を比較することは難しかったですが、土壌調査では様々な生物を見ることができました。

 

 

 

 

 

 

 

 財団の職員さんの協力のおかげで班員も知らなかった生物をだんだんと同定できるようになっていきました!

 また、知床にはダンゴムシがいないということにびっくりしました。

 

【マルハナバチ調査】

事前に北大や札幌の大通公園で蜂調査を行った時には、花の種類に関わらず外来種であるセイヨウオオマルハナバチが多く見られました。

知床での蜂調査はウトロ市街地(道の駅周辺)とウトロ山側の2グループに分かれて行いました。

ウトロ市街地で多く咲いていたマリーゴールドは、エゾオオマルハナバチのみが利用していました。セイヨウオオマルハナバチはコスモスにいましたが、コスモスはエゾオオマルハナバチも利用していました。これらのことからウトロ市街地では札幌とは異なり、在来種であるエゾオオマルハナバチの勢力の方が強いのではないかと考えました。

ウトロ山側(周囲を森林に囲まれた場所)ではシロツメクサやアカツメクサをマルハナバチが利用していました。11匹の蜂が見つかったうち、9匹がエゾオオマルハナバチで、セイヨウオオマルハナバチとエゾトラマルハナバチが1匹ずつで、山でも在来種の割合が高いことがわかりました。またエゾオオマルハナバチの新女王も確認することができました。

はじめはハチを怖がっていた班員も、札幌や知床でのハチ調査を重ねることによって簡単にハチを捕まえることができるようになりました!またハチが飛んでいる状態でもハチの種類や雌雄がわかるようになっていきました。

【調査中に見たものや景色】

 知床での調査中には目的としていた土とハチ以外にもシマヘビやエゾアカガエルを見つけたり、サルナシや山ブドウの実を食べたり、クマやシカの糞、シカの角を見つけたりと、様々な発見や体験をすることができました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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