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旅人に何を伝えるか~私たちが考える情報発信~

 外国人旅行者の話題でにぎわう昨今ですが、知床にも外国からの旅人が増えてきました。
日本人のみならず様々な国の旅人に知床を楽しんでいただくことは、世界遺産の本分でもあり、大いに歓迎すべきことです。

 一方、外国からの旅人を迎えるにあたり、現場には2つの課題があります。ひとつは、環境保全上の各種ルールをいかに正確に伝え、遵守に導くかという点。そしてもう一つは、知床の本質に出会う体験の提案ができるか、という点です。この2つの課題は日本人に対しても共通しますが、国籍に関わらず知床を訪れる多くの人たちに知床の真の価値を存分に味わってもらうため、世界各地を旅している外国の方の視点に立って、世界にも通用する情報発信の仕組みを構築する必要があります。

 そこで私たちは、手始めに国立公園の利用情報を一元的に発信する「知床情報玉手箱」サイトと、バックカントリーを楽しむ方向けの「知床連山エリアマップ」作りに取り組みました。

知床情報玉手箱

 

「知床情報玉手箱」とは?

 知床には、来訪者が「現地に到着後にほしい情報」が網羅されている媒体がありませんでした。例えば、知床では天候状況やヒグマの出没などにより、道路や散策路は意外とよく閉鎖されることがあります。また、季節によって道路や施設などの開閉時刻が様々です。

 そこで、次のような情報をひとつのウェブサイトに集約し、リアルタイム情報を更新、提供するために立ち上げたのが「知床情報玉手箱」です。

 

どんな点にこだわったか?

①見やすさ、わかりやすさを追求
ピクトグラムや〇×表示など、見た目で読み取れるようなサイトにしました。更新日時を項目ごとに表示しているほか、サイトデザインは見やすさを追求するため、極力シンプルにしました。また、移動しながら情報収集することを想定してサイトはもちろんスマホ対応済み、言語は日英2か国語です。

②ウトロ・羅臼両地域の情報を網羅
知床半島は東西で行政区域が羅臼町と斜里町に分かれていますが、知床を訪れた旅人にとって行政区域の違いは関係ありません。両側に常駐スタッフを配置して情報提供に携わる組織は数少なく、知床財団は両町をまたいだ唯一の組織と言えます。そこで組織の特性を活かし、半島の東西を一つにまとめた情報サイトの構築を目指しました。

③様々な施設で使ってもらえるページを作成
知床にある宿泊施設や飲食店、観光案内所などに設置してあるモニターで映し出せる専用ページを作成しました。これは、旅人だけではなく、旅人を受け入れる人たちに情報玉手箱を知床の案内ツールとして有効活用してもらいたいという意図からきたものです。

 

情報玉手箱が抱える課題と目指すもの

 道路の開閉状況や船の運航情報、ヒグマの出没状況など知床の現場の一次情報は、それぞれを管轄する組織が持っています。その発信方法は様々で、ファックスで発信するところもあれば、メールで送信するところ、はたまた全て電話対応をしているところもあります。情報玉手箱は現在、これら各々から発信されたものを知床財団が受け取り、サイト上で更新しています。
 この散在した一次情報発信の形態が将来的には、すべて情報玉手箱での発信に集約できれば、案内者はあちこち情報発信せずに済み、また、来訪者は情報の収集先が一箇所で済みます。

 そして、この知床情報玉手箱というツールを通じて、来訪者をもてなす案内者に一体感が生まれ、良質でスピーディな情報を一元的に提供する仕組みを作り上げることが私たちの理想です。

 

知床連山エリアMAP

山に精通した地元目線を加えて

 このマップは、花や鳥などよくある自然情報はいっさい取り除き、私たちが伝えたいルールやリスク回避のための情報提供に注力し、さらに地元目線が加わった実用性ある登山マップを目指しました。製作に際し、長年知床の山を登っている斜里・羅臼両町の山岳会や地域の関係機関に多大なご協力をいただき、特にトレイル上の危険箇所やグレード付けに関しては、とても貴重なご意見をいただくことができました。
 現在は、私たちの活動拠点である知床自然センターや羅臼ビジターセンターのみならず、町内のホテルや民宿、観光案内所などでも販売していただいております。

 

マップ作りの3本柱

①事故防止
登山には滑落事故など遭難のリスクがつきものです。知床も例に漏れず、これまでも年に数回、山の事故が起こっていました。その度に登山道整備の対策も取られていましたが、山を登る方に事前にしっかりリスクを認識していただくよう、地元山岳会協力のもと、危険箇所の情報提供には特に注力しました。

②知床ルールの普及
ヒグマが暮らす山における野営地での食べ物の管理、ヒグマ対策用スプレーのレンタル、携帯トイレの持参必須など、知床には知床ならではのルールとマナーがあります。このマップにそれらを掲載し、フィールドで実践してもらうことで、訪れた人により知床らしい体験をしてもらい、楽しんでもらえるよう留意しました。

③外国人対応
知床の山を目指して海外からやってくる人も年々増えていると感じます。しかし、英語表記された知床の登山マップは実は今までありませんでした。そこで、日々カウンターで知床の自然について案内業務を行っている職員の意見も取り入れながら、日本語と英語が表裏一体になっている仕様にしました。

 

旅人たちの冒険のために

 知床情報玉手箱や、知床連山エリアマップを具体的に作成し、情報発信の仕組みを模索する中で、私たちの考えが深まった点があります。それは「冒険する自由を尊重する」という視点です。
 例えば、ある山の登山が危ないか危なくないかは、登る人個人の技術次第ですが、それぞれの技術を測り知ることは難しいので、一律で「危ない」という案内になりがちです。

 一方、どんな形でも自然の中に入れば、ヒグマやハチ、悪天候や道迷いなど、多かれ少なかれ「危険」と向き合うことになります。そしてそこでは、救急車や警察など日常における安全装置は使えず、自分自身で様々な状況に対処することになります。知床の豊かな自然は当然ながら危険も含んでいるので、そこに踏み出す「冒険」なしには、その本質に触れるチャンスはそう多くはありません。冒険のレベルは人によって違い、整備された遊歩道を歩くことも冒険でありうるでしょう。どんなレベルであっても、自己の責任において冒険する者にこそ、自然を楽しむ自由が与えられるべきだと考えます。
 今日も知床には多くの旅人が訪れます。一見準備不足な若者が、羅臼岳の登り方を聞いてくることもあります。とても心配ですが、私たちは安全に最大の関心を払いつつも、彼らが冒険する自由も尊重したいと考えています。その時私たちが手渡す情報は「危ないからやめて」といった単なる抑制ではなく「こういったリスクがあり、そのためにはこのような準備が必要」と、利用者が自らの行動を決定することができる速報性と信頼性の高い情報でありたいと思います。

 地の果てとも言われるここ知床を旅先として選んだ段階で、私たちが出会う旅人は、既に少し冒険に踏み出しているのかもしれません。知床を訪れた人たちが自分たちなりの冒険を選ぶための情報提供、それが私たちの成すべき仕事だと、考えています。

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