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知床半島に生息するヒグマの数とマネジメントの今後

 

知床半島ヒグマ管理計画とは

 知床に生息するヒグマを適切に管理するため、関係行政機関は「知床半島ヒグマ管理計画」を定めています。管理計画では、地域住民の生活や産業を守りながら、利用者の安全と良質な自然体験の場を確保しつつ、ヒグマの個体群を存続させること(絶滅させないこと)を目的に計画が策定されています。

 ※環境省、林野庁、北海道、斜里町、羅臼町、標津町

 

 

見過ごせないあつれきの増加


 知床は世界有数の高密度のヒグマの生息地です。観光船によるヒグマ観察など、知床ではヒグマが観光資源となっている側面もあります。
 一方、知床半島でのヒグマの有害捕獲数(図1)は増加傾向にあり、ヒグマ対策のコストや、ヒグマによる地域住民などへの潜在的リスク、生活環境被害も増加しています。斜里町と羅臼町におけるヒグマの一年間の有害捕獲数は、ここ20数年間で約4倍に増加しています。
 有害捕獲の主要因は、斜里町では農作物への加害、羅臼町では市街地への侵入や水産加工物への加害です。特に2021年は羅臼町で干し魚を保管する倉庫内等にヒグマが侵入する被害が相次ぎ、人とヒグマのあつれきが深刻化しました。 被害を出して有害捕獲された個体には、大型のオス成獣も複数含まれています。オス成獣は一般に警戒心が強く、建物に突如侵入したとはあまり考えられません。 これらのヒグマは、屋外に干されていた魚や水産加工物の残滓等を口にして、人為的な食べものに執着した結果、人に対する警戒心が薄れ、行動が大胆になり、被害をもたらすクマに変貌した可能性が高いと考えられます。

※移動平均とは、一定期間の数値から平均値を計算することで変化を平滑化し、傾向をつかみやすくしたもの。

(図1)斜里町と羅臼町におけるヒグマの有害捕獲数の推移

 

 

 


斜里町農地のビート被害

羅臼町の住宅地に侵入したオス成獣の足跡

国立公園内での利用者とのあつれき「クマ渋滞」


 

正確なヒグマの個体数を調べる

 

 知床半島のヒグマが絶滅することがないよう、管理計画ではメスヒグマの人為的な死亡数に上限の目安を設けています。「人為的な死亡」とは、狩猟や有害捕獲、交通事故などのことをいいます。
 第1期の管理計画では、5年間(2017~2021年)におけるメスヒグマの人為的な死亡数の総数の目安を75頭、年間で15頭以下としていました。ただし、この数値は知床半島に何頭のヒグマが生息しているか、その実態がよく分からない状態で定められた頭数でした。当時の個体数推定は、知床に「約100~1000頭」のヒグマが生息しているという、極めて曖昧なものだったのです。

 科学的で適切なヒグマの保全管理を進めるために、2019年から3年間の研究プロジェクトが始まりました。このプロジェクトで実施した大規模なDNA調査によって、知床半島(斜里町・羅臼町・標津町の3町)に生息するヒグマの推定生息数を高精度に算出することができました。
 2019年の推定生息数は、中央値が472頭(推定幅:393~550頭)、2020年の推定生息数は中央値が399頭(推定幅:342~457頭)となりました。
 つまり、知床にはヒグマが「400~500頭」生息しているということが確信をもって言える状況になったのです。

 ※環境再生保全機構の環境研究総合推進費(公募型研究予算)【4-1905】「遺産価値向上に向けた知床半島における大型哺乳類の保全管理手法の開発」。北海道大学・道総研・知床財団・東京農工大学が協同で実施。

 

 

ヒグマの毛からDNAを解析するヘアトラップ調査

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2期 知床半島ヒグマ管理計画
 
 大規模DNA調査と過去のデータをもとに、知床世界自然遺産地域科学委員会「エゾシカ・ヒグマワーキンググループ会議」によって、ヒグマ管理計画の改定作業が行われました。過去のヒグマ生息数の増減をシミュレーションした結果、2010年まではヒグマの個体数が増加しているものの、その後はほぼ横ばい状態を保っていることがわかりました。
 精度の高い個体数推定が実現し、生息数の将来予測が可能になったこと、人とヒグマのあつれきが増大していることなどを鑑み、「第2期知床半島ヒグマ管理計画」では、メスの人為的死亡数の上限目安を6年間で108頭(年間18頭)とすることが決まりました。
 
 
 
上限頭数は捕殺目標ではない
 
 年間18頭というメスヒグマの人為的死亡数は、あくまでも上限の目安であり、捕殺目標ではありません。人とのあつれきを低減しつつ、ヒグマの個体群を持続可能な状態に維持するための目安です。
 メスの人為的死亡数が年間18頭で推移した場合、2027年にはヒグマの生息数が2020年の水準より14%程度減少すると考えられています。しかしその水準であっても知床半島のヒグマの絶滅確率は0%であると考えられています。
 
 
 
今後のヒグマとの向き合い方
 
 長年に渡り実態がよく分からなかったヒグマの個体数が明らかとなった今、ヒグマのマネジメントについてもより踏み込んだ議論を進めることが期待されます。
 被害の現場では、「ヒグマは増えすぎだ、数を減らせ」という意見をしばしば聞くことがあります。しかし、水産加工物の管理不徹底や生ゴミの投棄といった人間側の問題行動が改善されなければ、被害の軽減は達成されないでしょう。また、ヒグマは知床の自然の豊かさを象徴する大型哺乳類であり、観光資源として必要とされている側面も忘れることはできません。
 知床半島内でもエリアによって人間の活動が一様でないことも考慮する必要があります。遺産地域などの保護区、農地や漁業活動の拠点、市街地といったように、場所ごとにあつれきの内容も程度も異なります。
 
 斜里町内の農地では、町から委嘱を受けたハンターがパトロールを行い、ヒグマの有害捕獲という命がけの役割を担っています。しかし、熟練ハンターの高齢化が進み、銃によるヒグマの捕獲経験者が減少することで、地域住民の速やかな安全確保が難しくなることも懸念されます。市街地や被害が深刻化している農地での適切な捕獲体制の維持と、被害を予防するための人間側の行動改善、この二軸が今後のヒグマのマネジメントでは欠かせないものとなるかもしれません。
 時代と共に人間社会の情勢が変化してきたように、ヒグマの生息状況も一定ではありません。変化するヒグマの現状に合わせて人間側も対応を変えなければ、あつれきはより深刻化すると考えられます。ヒグマ対策における政策決定に関わる行政や、現場を担う知床財団、地域住民は今後、中・長期的な視点に立ってヒグマとの向き合い方を策定する必要があります。

 

知床の未来を担う子どもたちに向けて毎年行っているヒグマ授業

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第2期知床半島ヒグマ管理計画」
の全文はこちらから読むことができます。

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