知床財団

会員・寄付のお願い

TOPICS
最近の活動特集

知床五湖の花を調べる


 2021年夏、私たちは知床五湖ではどのような植物が生育しているのかを正確に把握するための植生調査を実施しました。
 知床財団が独自事業として行っている植生調査としては、2014年から実施しているフレぺの滝遊歩道に続き、2か所目となります。
 これまでの知床五湖に生息する草本植物の開花情報は断片的なため、今現在の開花時期や種を正確に記録したものは残っていません。また、知床五湖周辺には多くのエゾシカが生息しており、植生への影響が懸念されているため、開花種を確実に確認していくことも重要です。開始年となる2021年は、知床五湖周辺の植生現状を把握するためにまずは植物リストを作成することにしました。

 

 

知床五湖とは?

知床五湖の全湖と高架木道

 
 知床五湖は、海や森、山や湖などの美しい景色を一度に楽しむことが出来ることから、自然豊かな世
界自然遺産知床を象徴する景勝地として人気のある場所です。
 知床連山を背景に原生林の中にたたずむ5つの神秘的な湖周辺は、多くの野生動物の生息地でもあり、ヒグマの爪痕やクマゲラの食痕など知床の自然の豊かさを実感できる場所ですが、それと同時に多くの人が訪れる観光地ゆえ、帰化植物により本来の植生が脅かされるといった問題も抱えています。

 

 

調査方法

 

 調査は知床五湖開園期間中の6月から9月までの4か月間、知床財団の担当職員3名で計6回実施しました。
 調査は高架木道を含む地上遊歩道入口を起点とした約3㎞の遊歩道上を踏査し、歩道ルート上から左右約2mの可視範囲において確認した草本植物を記録しました。

 

 

ヒグマとエゾシカに調査をはばまれる

木道上に落ちていた真新しいヒグマの糞

 調査を予定していたその日のその時間にヒグマが出没、または滞留している場合は調査をすることが

できません。
 また、種の特定ができず開花を待っていた花をエゾシカに食べられ肩を落とすことも度々ありました。

 

 


 

 

調査の結果
 
(1)植物リスト 48科124属172種
 
 知床五湖とその周辺の植生は、水辺から森林、そして草原性の植物まで、実に多様性に富んでいました。これは短期間の調査にも関わらず、173種の開花を確認出来たことからも見て取れます。
 
(2)希少植物
◎環境省レッドリスト2020における絶滅危惧Ⅱ類(VU)が4種
①ネムロコウホネ
②オクエゾサイシン
③コキツネノボタン
④シコタンハコベ
◎北海道レッドデータブックにおける絶滅危急種(VU)が1種(ネムロコウホネ)、希少種(R)が1種(オクエゾサイシン)
 
 ネムロコウホネなど五湖ならではの希少種を確認できたことは大きな成果でした。しかし今後、同じ水辺の生息環境を好み繁茂する帰化植物であるスイレンの影響を受ける可能性があるため、注視していかなければなりません。
 
(3)帰化植物 29種を確認
 
 確認種全体の16%を帰化植物が占めていました。多くの観光客が訪れる遊歩道なので、帰化植物の存在はある程度の予想はしていましたが、残念ながら予想を上回る結果となりました。

 

 

知床五湖で確認された花たち
 
今回の調査で確認された植物の中で、調査員たちを時に悩ませ、時に心躍らせた花たちをピックアップしてご紹介します。
 

同定に苦労したツツジ科のイチヤクソウ

希少種のネムロコウホネ.三湖に多く見られた.

6月に多く見られるギンリョウソウ.


トウヌマゼリなど11種類のセリ科が見られた.

野生のハッカ.遊歩道の一部に群落を形成している.

林床にはラン科が多く見られた.

 

 

 

 

 

 

 

 


調査中にエゾシカに食べられてしまった大型のセリ科草本.

湖沼に繁茂するスイレン.帰化植物の一種で課題のひとつ.

水辺で風にそよぐクサレダマ.


帰化植物のビロードモウズイカ.

ラン科の身ヤマウズラ.

 
 
 
 
 

 


 

 

私たちを悩ませたツツジ科

イチヤクソウ

 今回の調査では、同定に苦戦したものがいくつかありました。なかでも、ツツジ科(ERICACEAE)の同定には悩まされました。
 調査を開始してわかったことですが、知床五湖にはイチヤクソウの仲間だけでも、ベニバナイチヤクソウ、イチヤクソウ、ヒトツバイチヤクソウ、ジンヨウイチヤクソウが開花しており、それぞれの個体を注意深く観察する必要がありました。


ベニバナイチヤクソウ

 この仲間は、つぼみの時期が長かったため、花が咲いた時の喜びはひとしおでしたが、そこから同定するまでは苦労の連続でした。
 同定の決め手は、花柱(雌蕊)は曲がるか、曲がらないか(そもそも曲がっているとはどの程度を指すのかで混乱)確認し、更に、萼片は細長く、長さは幅の2倍以上あるか、そうでないか。2倍以上ならイチヤクソウ。しかし、時に葉の退化した品種もあり、花茎が紅紫色、花冠も赤みをおびるものはヒトツバイチヤクソウ。また、その萼片の先はとがるのか、とがらないのか(とがらないのであればジンヨウイチヤクソウ)など、確認する箇所が多岐にわたる種であったため、生育環境も含め総合的に判断する難しさがありました。

 

 

フレペの滝遊歩道と知床五湖を比べて

 現在フレぺの滝遊歩道沿いで確認されている花が110種であることと比較すると、今夏のわずか6回のみの調査で173種の開花を見せた五湖には植生の豊かさを感じずにはいられません。五湖には、五湖ならではの水生植物、森林性や草原性の植物など、多種多様な花が私たちの目を楽しませてくれるのです。

 

 

2年目の調査に向けて

 2021年度の調査では4か月の短期間ながら多くの草本植物の開花を確認することができました。しかし、植物リストの作成については、現地観察のみでは同定が困難な種も多く存在しました。今後は同定精度の向上のためにも標本採取のを検討する必要があります。
 知床は、狭いエリアながら多様な環境が凝縮しており、それぞれの環境に適応した花が咲いている稀少な場所です。植生調査は地道ですが、一つ一つの情報を積み重ね、次世代に繋いでいくことが重要です。今年も新たな植物との出会いを期待して、調査を継続していきたいと思います。

 

 

※植物の採取は禁止されています。

国立公園の特別地域内では、許可なく植物を採取することが禁止されています。調査で標本として植物を採取するためには、環境省や林野庁などその場所を管轄する関係機関へ申請書類を提出し、許可をもらう必要があります。
 

 

 

一覧へ戻る

この記事をシェアする

アーカイブ一覧

Donation知床の自然を受け継ぐため
支援をお願いします

会員・寄付のお願い

私たちは、知床で自然を「知り・守り・伝える」活動をしています。
これらの活動は知床を愛する多くのサポーターの皆様に支えられ、今後も支援を必要としています。

会員・寄付のお願い
TOP

知床財団 公益財団法人 知床財団
〒099-4356
北海道斜里郡斜里町大字遠音別村字岩宇別531番地
TEL:0152-26-7665

Copyright © Shiretoko Nature Foundation. All Rights Reserved.

知床財団