知床の課題

知床の今・私たちの挑戦

ヒグマ対策犬レプンがご案内します

知床は生き物たちの「食べる・食べられる」の関係によって海から川、そして森へとつながる複合生態系の分かりやすい見本として、またシマフクロウやオジロワシなど世界的にも希少な動植物や様々な生き物たちが利用する貴重な場所として世界自然遺産に登録されています。しかし、ヒグマをはじめとする野生動物と人間が非常に近い距離で暮らしているがゆえに起こる軋轢や、急増したエゾシカによる生態系へのダメージなど、世界遺産としての価値を後世に伝えるために今すぐにでも対処し始めなければならないことがたくさんあります。

シカが増えすぎて知床が変わっちゃう?

キハダの樹皮を食べるエゾシカ
キハダの樹皮を食べるエゾシカ
遠音別川右岸。畳いわし状態のシカたち
遠音別川右岸。畳いわし状態のシカたち

知床半島ではエゾシカの高密度状態が長く続いており、特に山麓の越冬地を中心とした植生への影響が深刻になってきています。今の状態を放っておくと、シカが好んで食べる植物や木がなくなってしまうと同時に荒れた土地を好む外来種が侵入しやすい環境を作ってしまう原因になります。このことは、知床にもともと生息する生き物たちの生活に多大な影響を与えることになります。

私たちは知床半島にエゾシカが一体どれくらいいるのか、どのように暮らしているのかについて長年独自の調査を続けてきました。現在、それらのデータをもとに、エゾシカの管理をどのように進めるかについて議論する場である知床世界自然遺産地域科学委員会に対し積極的な情報提供や提案を行っています。また、環境省からの委託を受けてどのようなエゾシカの個体数管理手法が最も適切なのかを検討する事業を実施しています。

クマたちと人々の折り合いはつくの?

ヒグマに壊されたゴミ箱
ヒグマに壊されたゴミ箱
野生動物に食べ物を与える観光客
野生動物に食べ物を与える観光客

知床では人が暮らす街にもヒグマがしばしば侵入し、農地では農作物被害が発生します。また、国立公園内で日常的に「見えてしまうヒグマ」を求めて多くの人々が訪れ、野生の躍動に感動する一方で、必要以上にヒグマに近づいて写真を撮ったり、ヒグマに食べ物を与えたり、生ごみを投げ捨てたりする事件(←私たちはこれらを「事件」と呼びます!)が後を絶たちません。知床は今、いつ人身事故が起きてもおかしくない状況が続いているのです。ヒグマは一度人の食べ物の味を覚えると、人から食べ物を奪おうと積極的に近づいてくることもあり、そんなクマは殺さなければならない場合もあります。ヒグマの生活を守りつつ人々の生活を守ること、そして地域住民や知床を訪れる観光客の皆さん一人一人にヒグマとはどんな動物で、事故を防ぐためにどんなことに注意しなければならないかを知ってもらう仕組みづくりが急がれています。

斜里町におけるヒグマ目撃件数の推移(資料:斜里町)
斜里町におけるヒグマ目撃件数の推移(資料:斜里町)

私たちはヒグマの生態を調査するのと並行して、それまで国内では一般的な駆除一辺倒のあり方を見直し、大きな音のする花火やゴムの弾を使うヒグマの追い払いを行ったり、ヒグマを誘引するエゾシカの死体や不法に捨てられたゴミの除去といった管理活動を町と協力して行ったりしています。また、ヒグマと人の生活圏を物理的に分ける電気柵の普及にも力を入れています。
一方、皆様からの会費や寄付をもとに地元の小中学校への出前授業や、知床自然センター来館者を対象としたいろいろなショート・レクチャーの開発・実施など、「クマ」ではなく「人」に変わってもらうこと、つまり人の意識を変えることで事故を未然に防ぐ取り組みに力を入れています。また、従来ヒグマの出没によってたびたび閉鎖されていた知床五湖の地上遊歩道については、1日の利用者の数を制限したり、利用者にはヒグマに関するレクチャー受講を義務付けたりするなど全く新しい利用制度を行政や地元関係団体と協力しながら導入、実施しています。私たちはこの制度の実質的な管理・運営団体として、より自然にやさしく、かつ、より観光客の皆様の安全と満足度を高められるよう試行錯誤しながらその制度の改善に努めています。

ユネスコから17の宿題が…

「世界遺産になった!めでたし、めでたし…」では済まされません。知床が世界遺産であり続けるためには、その価値をしっかり保つための取り組みが行われているかどうか世界遺産委員会の場でチェックを受け続ける必要があります。実際、2008年2月にユネスコ世界遺産センター及びIUCN(国際自然保護連合)による知床の保全状況に関する現地調査が行われ、「良好な管理努力が続けられており、他の世界遺産地域の管理にとってよい手本になる。」との評価をもらった一方で、これからの保全管理への助言として17の勧告(宿題)が出されました。それらの宿題は、海洋資源の管理、サケ科魚類とダムの管理、エゾシカの管理、エコツーリズムの管理、気候変動のモニタリングの大きく5つに分類されますが、なかでも、気候変動の影響に関して注意深く観察していくこと、将来の気候変動による影響を最小限にするための戦略を作ることが重要であるとされています。

知床には遺産地域を適切に管理するために科学的な知見から行政への助言を行う知床世界自然遺産地域科学委員会という組織があります。知床は科学者のアドバイスを受けて、ユネスコからの宿題に対する解決策を実行していくことになります。私たちはその実行部隊であり、経過を見守る観察者でもあります。例えば増えすぎたエゾシカの捕獲を実際に行ったり、改良した砂防ダムを実際に魚が上っているか確かめたり、温暖化によって暖かな海の生き物が勢力を拡大する状況を調査するといった活動を行っています。また、知床のエコツーリズムをどのように推進していくかを検討する様々な場に積極的に関わり、エコツーリズムの戦略、ルール作りに協力しています。

エゾシカの調査研究
エゾシカの調査研究
ワシの営巣調査
ワシの営巣調査

知床の守護者として

上に挙げた3つの例は、知床が抱える課題のほんの一部に過ぎません。また、自然環境や社会環境の変化に伴い、新たな課題が生まれてくる可能性も否定できません。私たちはわずか30人前後のスタッフで活動する小さな集団ですが、長年知床で培ってきた自然保全活動の技術・知識や、常にそこにいる実動部隊としての強みを活かし、問題の早期発見と、その解決策を積極的に提案していく知床の番人でありたいと考えています。今後も私たちは知床に常に寄り添い、知床の自然の価値を未来に伝える活動に取り組むと同時に、その取り組みが先例として少しでも日本全国、そして世界の人たちのお役に立つことを願っています。私たちの挑戦はこれからも続きます。

知床の課題